南野製作所は倉敷市のテクノバレー岡山内に工場兼オフィスを構え、農業機械部品や産業機械部品を生産しています。近年の顧客ニーズは多品種、小ロットが増え、以前のように十分な期間をとって大量生産というビジネスモデルから変容することが求められてきました。そこで同社は顧客の期待に応えられるように、業務設計の見直しや技術力の向上が必要という課題認識を全従業員で共有。働き方改革に取り組んでいます。さらに5年後を見据えた際は、現在の事業を進化させ、新たな領域にもチャレンジすることを目指しています。
【事業の現在】
“細やかさ”“粘り強さ”で定評のある機械加工を提供
農業機械や産業機械の部品加工を請け負う南野製作所。NC施盤やマシニングセンタ、二次元、三次元測定器といった高性能の設備をずらりと揃え、多彩な加工に対応する。設備を柔軟に使い分けることで、精密かつスピーディーに行えるのが、同社の強みとなっている。
「当社の製造現場で活躍する技術者の約3分の1が女性。さまざまな工作機械を段取りする多能工の女性エンジニアも珍しくありません。一般に女性は“きめ細やか”で“粘り強い”とされますが、当社の場合、そうした傾向が良い方に作用しているようです。クライアントからも“配慮が行き届いているし、難しいオーダーにも粘り強く対応してくれる”という声を頂くことが多いですね」と、代表取締役の浅野時栄氏は笑う。その点が評価され、2017年には「はばたく中小企業・小規模事業者300社」(中小企業庁)に選ばれている。
【将来の方向性】
農業機械、産業機械…さらに多方面の加工に対応できる技術集団へ
長く農機具分野が中心だったが、技術を活かし、新幹線の自動ドアなどの空圧シリンダ部品加工も手がけるようになった。これをきっかけに、人工透析装置の樹脂部品加工も始めるなど、事業領域は徐々に広がっている。
「農業機械部品から空圧シリンダ、その次は油圧関連部品…蓄積した技術を様々な領域に応用し、市場拡大を図ります。今はいろんな業界を勉強させてもらっているところで、例えば耐震関係の分野でうまく技術を活かせるのではないか、など模索しています。また既存の機械部品加工では、低コスト・短納期・多品種への要望がさらに強まっています。多様な声に対応できる会社を目指さないといけません」(浅野氏)
そのために2年前から力を入れているのが、5S(整理、整頓、清掃、清潔、 しつけ)活動だ。品質管理担当の山本祝嘉氏は、5Sの重要性を痛感していたという。
「現状に安住していては、取り残されてしまうのではないか?という危機感がありました。その頃、社長から“さらに飛躍できる会社にしたい”という思いを聞き、今こそ5Sを徹底し、効率良く仕事ができる環境を整えようと全従業員に提案。活動をスタートしました」
【働き方改革】
部門間の連携がスムーズになり全般的な品質が向上した
例えば工具置場に“番地”を設け、多岐にわたる工具も決まった番地に置くようにした。すると工具名を知らない若手でも、先輩から「D-1-5番を取って」と番地で言われるため、間違いなく工具を準備できるようになった。
「5Sでムダな動きがなくなった分、業務に集中できるようになりました。工具や機械を大切に扱う習慣が身につき、品質も向上しています」
と胸を張るのは、5Sのチームリーダーを務めるLB担当の片山彰氏。同じくチームリーダーの総務担当・西野翠氏は言う。
「社内のコミュニケーションが活発化し、部署間の連携もスムーズになったと思います。工場見学に訪れるお客様も格段に増えました。そこから新規のお客様をご紹介頂けたりするんです」
品質改善、5Sの効果等で製品加工の不具合数は、10年前に比べ8分の1に減った。浅野氏も、
「従業員が自発的に動けるようになりましたし、“こうしたらどうか”と意見も活発になった。5Sを実行する前と比べ、大きく成長しましたね」
と手応えを実感する。
これに加え、月に数回、定期的に教育の日を設けるようにした。テーマはBCP(事業継続計画)やSDGs(国際社会共通の持続可能な開発目標)といった、業務から少し離れたものが中心。SDGsなど自分とは無関係に見えても、学んでみると身近であることがわかる。視野を広げれば、人生にも仕事にも影響する発見がある。そう考えての試みだ。
「私が目指すのは“歳をとってもずっと働きたい”と社員に思ってもらえる職場にすること。5Sで効率化できれば、時間的・精神的ゆとりの持てる職場となり、出産や育児との両立も容易になるでしょう。社員にはいつも言うんです。“あなたもいつか子を持つかもしれないけど、親が子と過ごせるのは、ほんの僅かな時間に過ぎない。だから大事にしなさい”と。そのためにも、職場が変わっていかないと。社員の人生を応援できる会社じゃないと、意味がありません」
先日、産休に入った女性と面談していると“育児にメドがついたら早く職場に戻りたい”と言ってくれて、とてもありがたかった、と笑う浅野氏。社員一人ひとりのアイデアを組み上げ、改善に向け着実に前進している。