ウイルは製品・設備に延命を図る表面加工・処理を行う技術集団です。サンドブラスト、ピーニング、防錆・防食溶射、耐摩耗溶射等の幅広い技術で受託加工や現地での表面処理工事を行っています。近年は出張工事現場での表面加工・処理に加え、他業務の相談・依頼も増えつつあり、工事現場や建設現場全体を統括できるようになることを目指しています。
製造業と工事業を両立する同社では、社員一人ひとり成長できるよう人材育成にも注力しながら、笑顔で働けるよう働き方改革に取り組んでいます。
【事業の現在】
過酷な環境に置かれた大型設備の耐食性・防錆性を向上。
金属やセラミックなどを溶かし、圧縮空気で吹き付けて対象物の表面に膜を作る。できた膜は、耐腐食性を向上させ、サビを防ぐなどの効果を発揮する。これがウイルのコア技術である「溶射」だ。溶射を行う会社はいくつかあるが、ウイルは「出張して現地で施工できる」点を強みとしている。
「運搬できる部品は、自社工場に持ち帰って表面処理できます。しかしプラントのケミカルタンクや大型船舶内タンクなどは、取り外すだけでも大変な手間がかかる。そこで現地で溶射できる当社の技術が求められるのです」
と同社の代表取締役・山口陵子氏は胸を張る。主な顧客は製鉄・製紙・化学薬品を製造するプラントなど。施工対象が10mを超える大型製品になることも珍しくない。
「鉄をステンレスなど他の素材に変えれば耐久性が上がりますが、コストは数倍。まして既に据え付けた大型製品を新素材に取り替えるのは、容易ではありません。ですが溶射を活用すれば、コストも手間も抑えられます。今、国内の数ヶ所で海上道路の計画がありますが、潮にさらされ激しい腐食が予想される箇所への溶射の活用が検討されています。溶射が求められる場は、まだまだ広がるでしょう」
【将来の方向性】
築き上げた信頼を基盤に新たな技術領域にもチャレンジ。
事業エリアは岡山のほか、四国・九州・関西など。2人で行って3日で終わらせる溶射施工もあれば、10人以上で1ヶ月半をかけるケースもある。
「ほとんどの場合、溶射は工事の最終工程になります。前工程が予定通り進まないと、しわ寄せは全部溶射の工程に来るわけです。リスクを見越した上でスケジュールを組み、スタッフを調整し、場合によっては協力会社も一緒に仕上げていくこともあります」
溶射という特定分野においては、相手が大手であっても、自分たちでイニシアチブをとって顧客をリードする技術力がある。この実績を武器に、同社はフィールドの拡大を睨む。
「プラントなど大型設備の補修・メンテナンス現場には、いろんな業務があります。溶射だけでなく、他業務に対応してもらえないか、といった相談も増えてきました。案件を前に進められるよう、社内の体制を整えています。多彩な要望に応えられるよう、私自ら土木施工管理技士などの資格を取得しました。安全基準の厳しいプラント関連業務で声をかけてもらえるのは、溶射に関する長年の実績があればこそ。高品質の工事で、お客様に満足のいく成果を提供したいですね」
と山口氏は意欲を見せる。
【働き方改革】
残業削減や休日整備、人材育成の体制づくりに注力。
溶射施工は繁閑差が大きく、繁忙期には施工が重なる。そのような中でも、同社は残業削減・休日確保に注力してきた。
「短時間で仕事を完了させる効率性を会社として評価するよう仕組みを整えてからは“必要のない時は17時に帰る”が当たり前になっています」
繁忙期には休日出勤もあるが、代休が取得できる。夏季休暇と一緒に代休を取ると2~3週間の連続休暇となるケースもある。
とは言え、工事に携わる従業員の中には「自分が休むと工程に迷惑がかかる」として、有給を取りたがらない者も少なくない。そこで同社では年5日、全従業員が同時に有給を取得する「計画年休」を実施。これにより、現場の従業員も安心して休めるようになった。
営業として活躍する大野由紀子氏も、職場の待遇に「とても満足」と語る。
「有給休暇もとても取りやすいですね。私はある音楽グループが好きで、有給休暇をとって東京までライブに行きます。職場の同僚もわかっていて“行ってらっしゃい”と送り出してくれるんです。また飼い猫が体調を崩し、有給休暇をとって看病した時も“猫ちゃんは大丈夫?”と気にかけてくれて」
また、重い物を運ぶ際に肉体への負荷を軽減する「マッスルスーツ」も導入予定。これを利用すると、塗料の入った重い一斗缶2個を、女性でもらくらくと持ち上げられる。手元で送り込んだ空気の力で動く人工筋肉を使用しており、モーターを内蔵していないので電気を必要としない。その為、軽量でメンテナンスしやすく、粉塵の舞う環境で使用するにはうってつけだ。試しにシニア技術者に装着してもらったところ、評判は上々だ。
その他、資格取得バックアップ制度も充実させていきたいと語る山口氏。
「知名度のない当社が社員にとって魅力的であるためには、働きやすい職場と、成長できる機会を提供するのが大事。社員には資格取得だけでなく、コミュニケーション能力や課題対応力も磨けるよう支援していきたいと思っています」
そういった社員の存在が、新しい技術領域に足を踏み入れる際の原動力ともなるだろう。