オサカダツールは重機に取り付ける油圧ブレーカーやハンドブレーカーの先端に取り付ける耐衝撃工具“チゼル”の製造メーカーです。チゼルを扱う製造メーカーは多くなく(自社で一貫生産を行っているのは、国内でも4社、岡山県美作市はチゼル発祥の地)、またクオリティの高さから同社では近年海外からの問い合わせも増えているといいます。そこで今後は輸出量の増加や販売形態の多様化(WEBサイトでの販売等)も視野に入れ、会社全体の業務見直しを図り、新しいことに挑戦していく環境づくりを始めています。
【事業の現在】
建設・土木工事に不可欠の多彩な耐衝撃工具を提供
道路・トンネル工事や採石・ビル解体現場で岩盤・コンクリートの破砕や掘削を行う際、ブレーカーという工具を用いる。ブレーカーの先端には「チゼル」と呼ばれる耐衝撃工具が装着される。このチゼルが、岩盤やコンクリを砕くのだ。
チゼル製造メーカーは日本に4社。うち第2位のシェアを占めるのがオサカダツールだ。油圧ブレーカー用、エアブレーカー用、ハンドブレーカー用などのチゼルを多彩に取り揃え、50年の歴史を刻んできた。代表取締役の牧明奈氏は言う。
「各チゼルメーカーの製品の個性・性能差は、焼入れ・焼きなまし技術に出ます。チゼルの強度を上げるため表面に熱処理を行うのですが、チゼル内部まで熱が入ると、逆に壊れやすくなってしまいます。表面はしっかり焼入れしつつ、中には熱を入れないというテクニックが必要なわけです。焼入れ・焼きなましの手法は、各社が独自に工夫しており、オサカダツールにも50年積み重ねてきた門外不出の熱処理技術があります。それが当社ならではのクオリティーを生み出しているのです」
質の高いチゼルを求める土木・建設現場は国内だけではない。世界には、旺盛な土木・建設ニーズを抱える開発途上地域が多々ある。それらのマーケットに切り込んでいきたい、と牧氏は構想する。
【将来の方向性】
日本独自の“芯入りチゼル”を世界に送り出したい
先端に特殊鋼を圧入し、硬度をアップさせた「芯入りチゼル」という製品がある。日本由来の特殊な技術で、海外チゼルメーカーはどこも扱えない。高い耐久性を誇る芯入りチゼルは利益率も高く、世界展開を図るにはうってつけだ。
「4年ほど前、カナダから“芯入りチゼルというものを知ったのだが、貴社で作れるか?”と問い合わせを頂きました。これをきっかけに、本格的な海外進出を志向し始めました」
牧氏は、オーストラリアで市場調査を実施。資源大国のオーストラリアでは、耐久性に信頼のおける資源採掘用チゼルが常に求められている。そこで芯入りチゼルを紹介すると、多くが興味を示した。
その後、海外取引に着手、現在では売上の1割前後を占める。カナダ・オーストラリアだけでなく、東南アジアなどにも高いニーズがある。
「海外売上の割合を拡大させたい。同時に国内シェアも拡大したい。そのために、女性営業職も登用しました。用途や機材に合わせたきめ細かなチゼルの提案は、むしろ女性が向いているのではないかと以前から感じていたので。また、これまでシェアの取れなかった中部地方で、営業職を現地採用。事業拡大に向け、準備は進んでいます」
これらの新たな展開を本格化させるには、社内基盤の整備・充実が欠かせない。
【働き方改革】
全社的改善活動の実施で、社内コミュニケーションを活性化
2018年の創業50周年を期に、牧氏は従業員に向け中期経営計画を発表。海外展開や年率5%の売上拡大など、目指す方向性を従業員と共有した。
一方、5S委員会もスタートさせた。参加するのは役職のない一般社員ばかり。製造部担当の小阪田竜馬氏は語る。
「みんな“誰が来ても動きやすい職場にしよう”と日々努力してくれています。以前、新工場を立ち上げた際、効率的で安全な動線をみんなで考えたんです。あの時、工夫したおかげで動きやすくなったという記憶が、従業員の中にあるおかげでしょう」
さらに2020年には、全従業員参加型の改善活動を始めた。きっかけは、全従業員を対象に実施したアンケートだ。その結果、若手よりも、何年も同社で働いてきたベテランの方が、働きがいを感じにくくなっているとがわかった。牧氏は早速、個人面談を実施。そして、社内コミュニケーションの不足に原因がある、と感じた。
「ならば改善活動の中で、言いたいことを言い合ってもらおうと。従業員が何人かのチームに分かれて取り組むのですが、リーダーを決め目標を設定するところから従業員が決めます。提案は何でもよくて、5Sのような改善でもいいし、評価や待遇制度に関することでもいい。全社的なこうした活動は初めてですが、発信の機会を持てる点は好意的に受け止めてくれているようです」
実際、牧氏が工場を回っていると、ちょっとしたことでも話しかけてくれる従業員が徐々に増えてきた。自らの働きがいを生み出すため、良い方向に進んでいると実感する。
「お客様からの依頼が特殊なものでも、“任せてください”と胸を晴れる従業員を増やしていきたい。それが当社の推進力になるのですから」
と、牧氏は未来を描く。