田中製作所は板金加工の技術で切る・曲げる・溶接・組み立てまですべての工程を社内で行う技術と設備があります。製造する9割以上がオーダーメイドで、お客様のどのような要望にも応じる技術力と提案力が特徴です。技術力の高さは各工程に専門の職人がいることや日々スキルアップに努める環境が背景にあり、今後もさらにその「田中とわかるものづくり」を追求していきます。そのため同社では、高い品質管理を保ち続けるための組織づくり、ワークライフバランスを考慮した働き方改革の取り組みに注力しています。
【事業の現在】
切る・曲げる・溶接に一貫対応。多品種小ロットに強みを発揮
田中製作所は、配電盤・分電盤の筐体を板金加工するメーカー。とりわけ特注品で用いられる、板厚6mm以下の薄板の計装板金を得意とする。
機械部品加工を手掛けるようになったのは1990年代。ある農業機械メーカーの試作品に取り組んだことがきっかけだった。
「その農機メーカーが試作品を作る際は、切削・曲げ・溶接といった加工を、それぞれ別の業者に依頼していました。しかしこれでは時間がかかるし、柔軟な調整も困難です。当社は当時から、切削・曲げ・溶接を社内で一貫対応していました。一貫生産を行える技術の蓄積が高く評価されたのです」
と、代表取締役・門田悦子氏は語る。
農機メーカーや工作機械メーカーからの機械部品加工の依頼は徐々に増え、やがて事業の柱に成長。今では、売上の5割を機械部品加工が占める。残りの4割が配電盤・分電盤筐体分野、1割が試作品分野という構成だ。
「共通するのは“多品種小ロット”に対応している点です。試作品は1個が普通だし、他分野でも多くて10個程度。量産品を手がけるつもりはありません。ちょっとした工夫やスピード感の必要な板金を提供できるのが、当社の強みですから」
【将来の方向性】
岡山を中心とする地域に根ざし、“田中らしい”技術を提供する
2008年、リーマンショックで業績も大きく落ち込んだ時、門田氏は自らの足もとを見つめ直した。
「当社の優位性は“製造の困りごとに対応できる、地域のメーカーから重宝される板金屋”だと思ったんです。“こういうものが作りたい”“○日までに必要”という要望に応えられる柔軟性と技術力を大事にしようと、社員と共有しました」
事業エリアは岡山を中心に、1日で無理なく往復できる範囲。受ける仕事は試作品・特注品などの多品種小ロットのもの。“この仕上げは、田中さんの仕事だね”と顧客に言ってもらえるものづくりを行うことで信頼を重ねてきた。
そして2019年には、2030年までの成長プロセスを記した10年ビジョンを、社員と一緒に策定。技術の伝承や若い世代の登用を始め、また安全衛生管理や品質管理のための委員会を立ち上げるなど、新しいものづくりに向かう体制を整え始めている。
「大きなビジョンをみんなで考えたので、10年先に向け何をすべきか、社員が自覚して取り組めています。今は従来の事業に近い隣接分野で新たな柱を育てたいと考え、デザイン板金など種まきしている段階なのですが、そうした動きにみんなしっかりついてきてくれるのが嬉しいですね」
【働き方改革】
部門間の連携がスムーズになり、全般的な品質が向上した
同社は新加工機導入や工場拡張も意欲的に行うが、その際に重視するのが、設備投資によって人は育つのか?という観点だ。
「新型レーザー加工機を導入した時、加工のリードタイムを職人1人あたり1時間減らせました。5人が関わるとすると、毎日5時間が浮く。この時間を社員教育にあてています。経験の浅い社員でも最新設備を扱えるようになれば、ベテランがいなくても工程が回るようになります」
これまではベテラン社員ほど、「自分が休んだら後工程が動かなくなる」と休もうとしなかった。しかし新型設備を導入し、技術伝承が進んだことで、ベテランも早く帰れるようになった。全社員の残業がほぼゼロでありながら、利益は対前年で1.7倍になる月も出るなど、成果は着実に生まれている。
5S活動にも取り組み始めた。推進役の田代明美氏は語る。
「かつてはお客様からの問合せがあっても担当者でないと答えられない状況でしたが、今は図面はここ、見積もりはここと決めているので、誰でも答えられます。仕事の流れがとてもスムーズです」
工場長を務める光実俊之氏も、職場の進化を実感する。
「最近は、以前の2倍の受注件数を抱えても“多い”とは感じません。設備導入で自動化が進み、技術伝承が促進され、ロスのない職場となったおかげで、残業を増やしたりベテランに負荷をかけなくてもこなせるようになっています」
就業規則を見直し、有給休暇を1時間単位で取得できるようにした。また新たな人事評価制度も構築。あまり具体的でなかった評価基準を改め、業務上クリアすべき要件を社員に事前に明示した。これにより社員の納得感が高まっただけでなく、社員がクリアできていないポイントを克服する仕組みをどう整えるか、という経営陣にとっての改善点も見えやすくなった。
“田中なら”という顧客の期待に応えるため、門田氏は職場づくり・人づくりにまい進する。